やはり札幌市にある兼古循環器クリニック(兼古悟院長)は、その名のとおり循環器を専門とした十九床の有床診療所。ここには「医療機関では日本で唯一の人工臓器研究所」が併設されている。
 兼古院長の診療姿勢は「大病院で見逃すような病気をどれだけ見つけるか。不整脈といっても重要なのか、どうなのかをきちっと見極めなければなりません。
 多くは、不整脈を心筋極塞の時のレベルで診てしまうが、それは全く違う次元の問題だと思います。大きな施設では、冠動脈の検査は頻繁に行われ、狭窄の有る無し、程度のみが、重要視され、診断されている。血管の診断そのものは簡単に行えます。
 胸痛の原因は冠動脈のみが原因ではありませんので、それ以外の原因をきめ細かく診断し治療していくところに、小規模の循環器施設の存在意義が有るのです」としている。
 同クリニックでは、冠動脈等血管造影に使用するデジタル・シンネアンジオ装置などの大型機器をはじめ、各種の診断機器が導入されているが、人工臓器の研究、開発等、作る立場から、機械では見落としがちな循環器の疾患に対するざん新な考え方が生まれている。
「不整脈では、ウイルスが入って起こる心筋炎や心内膜炎が原因のものが多く見つかる。これら、心筋の炎症、変性等はどのような高価なハイテク機器でも診断できず、心筋のバイオプシー(筋肉の一部を切り取り、顕微鏡で検査する方法)を行わないと分からないものです。機能的なものが、実は器質的変化が原因であるという考えをしていく必要もあります。心電図一つとっても、異常な電気信号を出す変化が有れば診られますが、異常な変化が電気信号を出さない変化であれば、その変化のものの存在には、なかなか気づきません。機械、電気を研究している立場から分かることだと思います。異常な電気、または、電気をださない、変化を診ていかないとならない訳で、沈黙のものを見つけるには、物を取ってきて調べるしかない。CTなど形態を見る方向の診断機器は進歩し、本来機能がどうなっているのか、という診断機器の進歩は遅れています。脳はわずかですが、機能を見るようになってきましたが、他の臓器も形態のみならず機能を見ていかなくてはならないでしょう」(同医院長)。
 人工臓器の研究の目が、機械というものの特性や理論、原理の落とし穴の理解につながり、生体そのものについて、深めたり、常識の落とし穴のを見つけることにつながります。同医院長は、人工心臓や心臓ペースメーカーの研究ばかりではなく、他の病院で声帯を摘出した患者のために、自然な声が出せる人工声帯の開発に取り組んでいる。眼の見えない人の為の“人工の眼”や、耳の聞こえない人の為の“人工の耳”の開発を行い、商品化の為の企業を探している。患者さんのためにする研究は本当に楽しいとも語り、いかに患者が安心して、心地よく医療を受けられるかに重点を置いているかが分かる。
 臨床医の研究は、患者のために活かされてこそ意義があり、一人の患者のために行う研究や開発の姿勢が強固な信頼関係につながっている。研究は、医療現場の積極的な姿勢の現れと評価されるだろう。今回取材した例では患者たちが、その姿の中に、学問に支えられた医療者としての優しさを感じ取っている。