人工ペースメーカーについて

【電気的な刺激を補い、心臓の拍動を規則正しくする】
 わが国では年間約二万人、世界では約三百万人の人が人工心臓ペースメーカーを植え込んでいるといわれ、身近なところにも、人工心臓ペースメーカーを植え込んでいる人は多い。心臓はいうまでもなく、全身に血液を送り出すポンプの働きをしており、この拍動に異常をきたすと、生命にかかわる状況となってくる。
 成人の場合、心臓の拍動は一日に約十万回といわれ、約八トンの血液を送り出している計算だ。この心臓の仕組みを簡単に解説すると、大きさは握りこぶし程度で、重さは約三百グラム。中は上下・左右に四つの部屋に分かれており、右上部を右心房、左上部を左心房、右下部を右心室、左下部を左心室と呼んでいる。


 さて、心臓の脈をつくるのが右心房にある洞結節と呼ばれるところ。この洞結節が自己心拍のリズムを作り出すわけだが、ここから発生するリズムとは、実は電気的な刺激である。この電気的な刺激が房室結節から、心室へと伝わり脈が出る仕組みだ。つまり心臓は電気的な刺激が伝わって行くことで動いている。
 「心臓の筋肉は足などの筋肉と似ているもので、電気を通すと収縮します。心房が動いて、心室が動くというのが普通の心臓のリズムです。
 洞結節で脈をつくる場所がおかしい場合や房室で刺激がブロックされて伝わっていかない場合には、脈がリズムよく出ないことになります」(兼古院長)。
 これらの障害により心臓の拍動が遅くなったり、不規則になった場合に人工心臓ペースメーカーを植え込み、電気的な刺激を補う治療が行われる。

【皮膚を通じて電気を通す治療器、IHの調理器具類は危険!!】


 「人工心臓ペースメーカーの仕組みは簡単にいうと電池と電線で、あとは電気を流すためのスイッチなどの回路です。心臓にはマイナスの電極をつなぎ、プラスをアースしています。アースは、人体そのものにとる場合と、心臓につなぐ場合の二通りです。電池は二・三ボルトのリチウム電池を使っており、それを約二倍にして四ボルトくらいを流しています。心臓ペースメーカーは、最後の脈が出たところから、何秒以内に脈が無いと脈を作
れ、と命令を出し、スイッチが入るようになってます。
 ペースメーカーの電極を入れる場所は、心筋に直接装着する心筋電極という方法と心内膜に入れる方法があります。電極を心内膜に入れる方法には心房に入れる方法と心室に入れる方法があります」(兼古院長)。
 心臓ペースメーカーの仕組みは、心臓に不足した脈の信号あるいは障害で伝わらない電気信号を単純に電気を流すことで代行する、と考えると理解しやすいだろう。もちろん、さまざまな回路が組み込まれているわけだが。
 患者の年齢や疾患、生活様式などにあわせて、心臓ペースメーカーにはさまざまなモード(電極の位置、数、電気刺激の方法、心房や心室の電気信号の処理の仕方)がある。
これはAAI、VVI、DDD、AAIR、VVIR、DDDR等と呼ばれるもので、患者一人ひとりで適応は変わってくる。
 心臓ペースメーカーを植え込んだ後に動悸や胸痛が強くなった、めまいが起きてきたり気が遠くなったりするなどの異常が現れた場合には速やかに診察を受けることが大切。また、日常生活上の注意としては、通常の医療機関で使われているMRI装置、整形外科などで使われる皮膚を通じて電気を通す治療器などは使用してはいけない。
 「皮膚を通じて電気を通す治療器は家庭用のものも普及しているようですが、心臓ペースメーカーを植え込んでいる患者さんは使ってはいけません。また車のボンネットを開けてスパークしているプラグにさわるのもだめです。電気溶接なども注意してください。最近、使用が普及し始めたIHの調理器具類も同様に心臓ペースメーカーが異常をきたす原因になりますので、注意が必要です。ただし、携帯電話やテレビ、ラジオなど、過敏になる必要のないものもたくさんあります」(兼古院長)。